2024.11.16
ティール組織とウェルビーイング
成人発達理論とティール組織
フレデリック・ラルー氏が書いた『ティール組織──マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)という本が2018年に話題になりました。組織の形態が進化していくという話ですが、もともとは成人発達理論にもとづいています。
成人発達理論とは、大人の心も発達・成長するという理論です。ハーバード大学のロバート・キーガン氏やカート・フィッシャー氏、思想家のケン・ウィルバー氏などの研究者や思想家が、人間の心は成長していくということについての研究を進めています。
そのなかで、成長の段階を色に当てはめているのですが、赤からティール(緑がかった青色)まで5つの段階があります。段階の分け方は研究者によって異なるのですが、ここでは5段階のモデルを示しましょう。赤から始まり、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールという段階を踏みます。
ラルー氏の組織論から考えるウェルビーイングな組織とは
ラルー氏の組織論では、それぞれの成人発達段階を組織の段階に置き換え、それぞれにメタファー(例え)を置きます。
メタファーを見ていきましょう。最初の赤は、組織になる前の段階で、皆が自分勝手に振る舞っている様子を表します。
ラルー氏はこれを例えて「狼の群れ」と呼びますが、「赤ちゃんの群れ」と呼んだほうが適切ではないかと思います。なぜなら、狼の群れはきちんと統率が取られていると思うので、赤にはそぐわないと思うからです。保育園にいる赤ちゃんの集団は組織にはなっていません。みんな勝手なことをしています。この状態が人間でいうと赤の状態、まだ組織になる前です。
次に、人間が少し発達すると軍隊型になります。これがアンバーという褐色です。ここは躾・統率型の組織です。子どもでいうと「親のいうことは聞きなさい」「赤信号を渡ってはいけません」「扇風機に指を入れてはいけません」といったルールや規範で縛るような躾の段階です。組織でいうと、完全に統率され上意下達の組織、すなわち軍隊のような組織です。
そして、規範で縛ってばかりいるのではなく、もう少し合理的組織にしようというのが、次のオレンジ組織です。機械のメタファーです。機械は合理的で最適に動いていく。そういう利益第一の組織がオレンジ組織です。
合理性優先よりも人間の心を大切にしようという段階が、次のグリーン組織です。ウェルビーイングの学問から考えると、グリーン組織のほうがオレンジ組織よりも合理的組織というべきだと思います。なぜなら、これまで述べてきたように、人の心を無視したオレンジ型合理組織よりも、人の心のウェルビーイングを考慮して創造性・生産性を高め、欠勤率・離職率を下げたほうがより合理的だからです。
グリーン組織のメタファーは家族で、思いやりや信頼関係を大事にする人間第一の組織です。前に紹介した伊那食品工業や西精工は、自らも家族主義経営と名乗っている通り、人間を第一に考える幸せな組織ですので、概ねグリーン組織の様相を呈していると思います。
オレンジとグリーンの違いは、先ほども述べたように、人間の心を無視した部分最適型の合理組織と、人の心も考慮した総合的な合理的組織という違いだといえるでしょう。黙って命じた通りにしろといわれると誰でもやる気が失せてしまいます。真の合理主義経営は、人間の心も考えた合理性なのです。
ティール組織のメタファーは自然林
従来の経済学・経営学ではカネやモノの流ればかり考えていたのに対し、人間の心も考える行動経済学・経営行動科学という分野ができました。合理性を考えるなら人の幸せも考えるべきで、そうすると家族のような人間重視型組織になるというのがグリーン組織です。 グリーンを超えると自然第一のティール組織に達します。メタファーは自然林です。
最近の家庭では、昔の家父長制時代のような父親の権威はなくなっています。だからといって、父親の役割がなくなったわけではありません。家族には、現在も、父親と母親、そして子どもたちというヒエラルキーは残っているのです。
軍隊型のアンバー組織にはヒエラルキーしかなく、機械型のオレンジ組織にもヒエラルキーはありましたが、ヒエラルキーの特徴をやや弱めて人間味を加えたのがグリーン組織でした。
一方、自然林にはヒエラルキーはありません。自然林のなかでは、多種多様な動植物が一緒に生きています。そこでは木が偉い、花が偉い、クモが偉いといった序列はありません。すべての動植物がそれぞれ自由勝手に生きているのに、全体として調和が取れています。 つまり、親と子という緩やかなヒエラルキーのある家族主義からヒエラルキーを取り除き、父親も母親も子どもたちも、家族のみながそれぞれを尊重し、それぞれの自由を守り、それぞれの役目を果たすことによって調和を取っていくのがティール組織です。
ネッツトヨタ南国の横田さんの、見守り信頼し口出ししない経営は、ティール組織的経営の事例だといえるでしょう。
成人発達理論には、ティールより先の段階もまだまだあります。無為自然的な段階を経て最後は悟りのような段階へと続きますが、組織論としてはティールが最後だといわれています。ここを超えて人々が無為自然になると、組織をつくる必要がなくなるからです。