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2022.11.30

困難から立ち直る トップアスリートのメンタルとウェルビーイング

前野隆司 前野マドカ 田中ウルヴェ 京
 
 

「丸の内プラチナ大学」ゲスト 元五輪トップアスリート 田中ウルヴェ 京 (たなかウルヴェ みやこ) さん

社会人の学びと社会課題への挑戦の場を提供する「丸の内プラチナ大学」において、前野マドカが講師を務める「ウェルビーイングライフデザインコース(DAY3)」が開催されました。
今回の講座では、ソウル五輪シンクロナイズドスイミング・デュエット銅メダリストで、スポーツ心理学者の田中ウルヴェ京さんをゲスト講師にお迎えし、「困難から立ち直る トップアスリートのメンタルとウェルビーイング」をテーマに講義が行われました。
この記事では、講義のポイントをお伝えします。
 
田中ウルヴェ 京 (たなかウルヴェ みやこ)
 スポーツ心理学者(博士)
 五輪メダリスト
 慶應義塾大学特任准教授
五輪メダリスト(1988年ソウル五輪シンクロナイズドスイミング・デュエット銅)、日本、フランス、アメリカ五輪代表チームコーチ(1989-1999年)、国際水泳連盟(FINA)アスリート委員(1998-2017年)として、スポーツの競技現場経験があり、現在は、国際オリンピック委員会(IOC)マーケティング委員、メンタルトレーニング指導士、TVコメンテーター、主婦、母親など様々な人生の役割経験を背景にするスポーツ心理学者(博士)
 

トップアスリートのウェルビーイング 心の整え方とは?

1.自分に気づく
2.何が本当の課題か考える
3.課題に合わせた行動を考える
4.自分ではコントロールできないことは忘れる
5.体を整える
チームメイトとの代表権争いや心身の疲労など、アスリートには常に困難や不安がつきまといます。
多くの選手は困難に直面したとき「自分を見失わないように」と考えますが、
田中さんは「見失っている”自分”に気づくことが大切」と言います。
どういうことでしょうか?
10歳で競泳からシンクロナイズドスイミング(現 アーティスティックスイミング)に転向した田中さん。
つらい練習で自分を見失いそうになったとき、日記にありのままの感情を書き表していたそうです。
「手足が短いからシンクロには向かないとコーチに言われた。いったいどうしたらいいの?」
「練習中に両尺骨(手首から肘にかけて2本ある骨のうち小指側の骨)を疲労骨折してしまった。ライバルに先を越されてしまう..」
文字にすることで、自分を客観視でき、気持ちが整理されると言います。
また、自分でコントロールできないことは忘れ、何が本当の課題かを考えるようにしていたそうです。
「生まれ持った体は変えられないから、”体をどう使うか”を考えよう」
「たくさん練習した自分を褒めよう。腕の怪我を治すあいだ、足技を練習しよう」
アスリートにとって身体の悩みや怪我は競技人生を左右する大ごとですが、常にポジティブに考えることで、新しい表現方法を獲得するチャンスに変えていきました。
 

五輪メダリストの苦悩「こうあらねばならぬ」が自分を苦しめる

田中さんが大学4年生のとき、ソウル五輪でシンクロデュエット銅メダルを獲得。
その後、競技者を引退し、修士課程でスポーツ心理学を学びました。
競技者として厳しい練習に耐え、メダリストにまでなった田中さんですが、このとき大きな挫折を経験することになります。
先生から言われた「シンクロ以外の君はだれ?」の質問にうまく答えることができませんでした。
自分はシンクロ以外なにもないことを、心の中で認めたくなかったとご自身を振り返ります。
「私はメダリストとしてこうあるべき、にとらわれていたんです」
プライドが高く「正しいことは何か?」にばかり目が向いていました。
引退後はコーチとして代表選手を支えていましたが、選手の悩みや変化に気がつけず、コーチとしての自信を失っていました。
そのときの日記には「いつになったら自分は報われるのか?」と書かれていたそうです。
 

前WBAミドル級スーパー王者 村田諒太さんを支えた 「本当の自分」とは?

スポーツ心理学の研究を通じて、感情の種類を知り、気づくことの重要性を発見した田中さん。
メンタルトレーナーとして、これまで多くのアスリートを支えてきました。
プロボクサーで前WBAミドル級スーパー王者 村田諒太さんもそのひとりです。
「俺は誰だ?何のために戦うのか?」
WBAスーパー・IBF世界ミドル級王座統一をかけたゴロフキン選手との一戦に向けて、村田さんは半年間徹底的に心のコントロール力を鍛え、自分に問いかけました。
掲げた目標は「本当の自分でリングに立つこと」
・自分はなぜボクシングをしているのか
・世界最強の相手と戦う意味は何か
・本当の恐怖とは
・本当の強さとは
セッションを通じて見えてきたのは、コロナによる試合延期で調子を崩し、自分の弱さを自覚し、それを乗り越えようとする「等身大の村田諒太」でした。
落ち込んでいる自分に気づく。そうすることでネガティブの沼にハマらず、練習に打ち込めたそうです。
村田さんと田中さんのセッションの様子が、NHKBS1スポーツヒューマン「ボクサー村田諒太 心の戦い」で放送されました。
https://www.nhk.jp/p/ts/KQ8893GKX6/episode/te/8RQYLL368V/

トップアスリートへのコーチング「本当の自分」とはなにか

アスリートに限らず、心の微妙な変化に気がつくことは、困難から立ち直るためにとても大切なことです。
・プラスもマイナスも、どの感情も正しい
・無理に維持しようとせず、落ちた状態に気がつくことが大切
・周りに何を言われようと、変えられないものは変えられない
・嫌なことがあったらちゃんと傷つき、そこから何ができるかを考える
弱さを認めて、素直に自己開示できるって、素敵なことですね。
今夜は少し時間をとって、ご自身の心の状態に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
次回の「ウェルビーイングライフデザインコース(DAY4)」は、11月30日(水)に開催されます。
次の講義は「困難を乗り越えた経営者の事例とウェルビーイング」と題し、ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社⾧の石渡 美奈(いしわたり みな)さんにご登壇いただきます。
また講義の概要をお伝えしますので、どうぞお楽しみに!