2023.05.23
幸せと健康長寿について 心のウェルビーイングは予防医学
幸せを感じている人は健康長寿で寿命が長い
先進国に住む方を対象にした幸せと寿命の調査の結果では、幸せを感じている人は、そうでない人に比べて7年から10年寿命が長い、ということがわかっています。
また、修道院の修道女180人に対する調査では、修道院に入所したときに幸せと感じていた修道女の寿命は、あまり幸せとは感じていなかった修道女に比べて、やはり7年長いという結果が出ています。
要するに、幸せを感じていれば健康長寿であるということです。「幸せな人は長生きする(Happy People Live Longer)」というわかりやすいタイトルがつけられたディーナー氏のレビュー論文に述べられています。
40代・50代や中間管理職は幸福度が低く、年齢を重ねるほど幸福度が増す
人間は、生を受けてから年を重ねるごとにしだいに不幸感が増していき、50歳頃に底を打ち、それを超えるとまた幸福感が増していく、という傾向があるようです。
40代、50代は、会社で中間管理職になったり、家族の生活を背負ったりと、大変な時期ということかもしれません。
また、スウェーデンの社会老年学の研究者であった故ラーシュ・トーンスタム教授は、老年的超越という概念を打ち出しています。
90歳、100歳といった高齢の方は、実は自己中心性が減少し、自分が前に出ようとする欲も減り、物事に対する寛容性が高まります。
そのうえ、死の恐怖も減り、空間や時間を超越する傾向が出てきて、高い幸福感を感じているということが報告されています。
また、記憶力がよい人よりも悪い人のほうが幸福度が高いという研究結果もありますので、そういう意味では、年を重ねると、細かいことが気にならなくなる結果として幸福度が上昇していくようです。
つまり、老化というのは、記憶力が悪くなったり身体も動かなくなったりして幸福度が下がることなのではないかと捉えられがちですが、少なくとも主観的幸福感からは、齢を重ねるほど幸せになっていくといえるのです。
超高齢化社会で高齢者がイキイキと幸せに生きる社会
世界で最初に超高齢化社会を迎えた日本は、幸せな人が増えていく国といえるのではないか、と私たちは思っています。
世界が経済成長の時代から心の成長の時代に移行するなか、日本が21世紀型の新しいウェルビーイングの時代にうまく考え方を切り替えて、高齢者がイキイキと幸せに生きる社会をつくっていくというシナリオも夢ではありません。
もちろん年金問題や格差の問題、少子化の問題など、解決しなければならない課題は少なくありません。
しかし、ウェルビーイングという観点は、日本の将来を楽観視するための一つの希望なのではないでしょうか。
幸せやポジティブ感情は健康の最大の友
もちろん、そのためには心身の健康は前提です。幸せと健康は相関が高く、幸せと「健康だと思うこと」の相関はさらに高いことが知られています。
また、ポジティブ感情、すなわち幸せだという感情は、中枢神経系や自律神経系、免疫系に影響することが知られています。幸せと感じれば免疫力は高まるのです。
例えば、口角を上げて笑顔をつくるだけで免疫力が高まり、幸福度が増すという研究結果もあります。
免疫力が高まれば病気になりにくいため、結果として長寿になると考えられます。
幸せな人は、うつ病、大腸がんなど、多くの病気にかかりにくいことも知られています。
さらには、幸せな人ほど自殺願望は低いということも確認されています。
幸せは、健康の最大の友なのです。
「健康に気をつける」ように「幸せに気をつける」
このように、身体のウェルビーイングと心のウェルビーイングは関連深い概念です。
ですから、「健康に気をつける」ように「幸せに気をつける」べきなのです。
一般に、スポーツや睡眠、食事面など、身体の健康に気を配っている人は多いですが、心のウェルビーイングである幸せに気をつけているという人はまだ少ないでしょう。
何より「幸せに気をつける」という言い方自体、これまで使われてきませんでした。
しかし、幸せは健康長寿に影響することが明らかですから、「幸せに気をつける」という概念は、今後普及していくべき考え方だといえるでしょう。
心のウェルビーイングは、予防医学なのです。
健康に気をつける予防医学と同じように、幸せに気をつける心の予防医学。この概念が広まることを願います。
この概念が広まってこそ、ウェルビーイング時代の到来といえるでしょう。