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2023.10.29

企業経営の事例とウェルビーイング ネッツトヨタ南国 日本一非常識なディーラー

企業経営の事例とウェルビーイング

 

ネッツトヨタ南国──日本一非常識なディーラー

高知市にある自動車ディーラー、ネッツトヨタ南国もユニークな会社です。

商品はトヨタ自動車の製品ですから、他のトヨタディーラーと差はないはずですが、顧客満足度一位を十数十数年連続して獲得するような、サービスで他社を圧倒する競争力を持つ会社です。

この会社の考え方がまた驚きです。「組織図をつくらない」「社長室をつくらない」「壁をつくらない」「上意下達をしない」「多数決をしない」「真似をしない」「プロに頼らない」「マニュアルをつくらない」「失敗をとがめない」「できない理由を考えない」「教えない(教えると知識が増えるだけで、人間的に成長しないから)」「見守る、信頼する、考えさせる」と、いわば、「経営しない経営」とでもいえるような会社運営がされています。

 

社員の自主性を重視する

自動車ディーラーなので、新車発表会などでは従業員がみんなで工夫を凝らし、店舗を飾り、パフォーマンスの舞台を行うなどしてお客様を迎える用意をするそうです。

その際に、プロに頼むとあか抜けた格好のよいものができるかもしれないのですが、社員たちの熱意や思いをお客様に届けることができず、また自分たちにノウハウも溜まりません。

したがって、素人臭さが前面に出ても、みんなでつくるわけです。

例えば、ダンス部出身の女性が中心になって、音楽に合わせてダンスを踊ってスタートするなど、非常に楽しいお客様お客様の迎え方になっています。

先に紹介した製造業2社も明るく前向きな社員が印象的でしたが、ネッツトヨタ南国では、販売・営業独特の生き生きしたパワフルな元気さに感じ入りました。

 

トップダウン経営をやめ、社長の横田英毅氏は社員のやりがいを高めることに集中

創業者で現相談役の横田英毅氏が社長時代にしたことは、社員のやりがいを高めることだけだったそうです。

横田家は、自動車ディーラーや、他にも合計25社を経営する実業家一族でした。横田氏がまだ30代の頃にネッツトヨタ南国が発足する際、若き横田氏に社長のお鉢が回ってきたのです。

突然社長を任されることになった横田氏は、理工学部出身のうえ経営経験もない若い自分には、何の強みもないと思ったそうです。

唯一の自分の強みはよい価値観を持てることなので、よい価値観を追求し続けるよい会社をつくろうと、腹を決めました。

資産家に育った御曹司ですから、金儲けに走ろうとは露とも思わない。

よい価値観というのは社員の幸せである。社員の幸せはお客様の幸せにもつながる。会社での幸せといえば、仕事を通しての働きがいだろうと考えたということです。

横田氏がネッツトヨタ南国を託された際に思ったことは、もう一つ。若き資産家の自分ならば、長く経営に携わることができる。

それなら、時間をかけてよい価値観を持つ会社をつくれるかもしれない。

大きな利益を上げて会社を大きくするのではなく、小さくてもいいから、よい会社をつくってみよう。

30代で社長になった自分は今後20年以上社長ができるので、その20年をかけて理想の会社を創ろう。そう決断したそうです。

それからは、自家用車は下取りした中古車で、縦型ヒエラルキーを否定するために三日に一度はスーツではなく整備士と同じツナギを着て出社し、理想を語り続け、採用以外は何もしなかったといいます。

働きがいのある会社にするために、社長自ら率先して、きらびやかさを求めないことを見せたのでした。

その結果、顧客満足度一位を十数年連続で獲得する会社に育ったのです。

 

ディーラーなのに値引きや低価格競争をせず顧客満足度を最大化する

この会社の興味深いところの一つは、商談の際に値引きを武器にしない点です。

ディーラーなので、周りの同業他社は当然のごとく値引きを顧客獲得手段にしています。

前述の伊那食品工業も西精工も製造業ですから、製品の高い品質が競争手段になりますが、ディーラーは商品の品質には手が出せません。

結局サービスが勝負となり、値引きは大きなサービスのはずです。

しかしネッツトヨタ南国は、値引きを超える高品質のサービスが売り物になっているのです。

幸せに生き生き働いている社員のサービスを受けて、お客様の満足度は非常に高くなります。

したがって、値引きよりもこの会社のよいサービスを受けたいと、お客様を虜にしているのです。

 

お客様よりも社員の幸せを重視

私たちが見学させていただいた際、お客様の一人が、「この会社は客に対して失礼だ」と立腹されたという話を聞きました。

そのお客様に当時の横田社長は、「それは申し訳ありません。でも、当社はお客様よりも社員の幸せを重視します。お客様を幸せにするために残業し続けて社員がストレスを受けるようだと困りますので、明日にしてくださいませんか。もしお気に召さなかったら、どうぞ他社に行ってください」と対応したそうです。

それを聞いた私たちたちはびっくりしてドキドキしたのを覚えています。

社員が第一だと、社内向けだけでなくお客様にも堂々と公言してしまえることが、この会社のすごいところです。

横田氏は、「わたしが社員に幸せに働いてほしいと思うからこそ、社員たちはお客様にも幸せになってほしいと思う人になるのだ」といっていました。

幸せな人は、創造性に富み利他的でよい人ですから、結局はその社員のサービスはすばらしいものになります。

全国にトヨタのディーラー多数あれども、そのなかで顧客満足度ナンバーワンを十数年も続けられるのは、お客様の満足を得続けている証拠です。

サービスなどよりとにかく値引きしろ、というお客様は他社に流れますが、ネッツトヨタ南国の姿勢に賛同するよいお客様の満足を勝ち取って、それによって値引きをせずに営業を続けられ、利益につなげることができるのです。

このことは結果として、低価格競争に巻き込まれずにすむことにつながっています。